成人型ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)は、ランゲルハンス細胞のポリクローナルな増殖と臓器浸潤により特徴付けられる全身性の難治性稀少疾患である。 かつて、Letterer-Siwe病、Hand-Schűller-Christian病、好酸球性肉芽腫、Histiocytosis-Xなど種々の疾病名で呼ばれていた。 WHO(2007年)は、成人に多くみられる成人型LCH(LCH)は反応性増殖としている。 成人型LCHは、単一臓器型(single-system disease)と多臓器型(multi-system disease)に分類され、単一臓器型は単一臓器限局型(single-system disease involving a single site)、単一臓器多発型(single-system disease affecting multiple sites)に分類される。 確定診断は主に肺の組織生検によりランゲルハンス細胞の増殖を証明することであるが、気管支肺胞洗浄液検査で5%以上のランゲルハンス細胞(CD1α)増多を認めた場合診断に有用とされている。
アメリカ胸部疾患学会(ATS)、ヨーロッパ呼吸器学会(ERS)と日本呼吸器学会(JRS)合同にて、成人型ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)は、Rare Lung Disease(希少疾患)の範疇に入る疾患として、それに対する診断と管理のためのガイドライン作成過程である。
発症機序は不明である。 成人例の多くは喫煙が契機になると推定されているが、喫煙者のごく一部が発症し、何らかの不明の遺伝的素因が関与すると想定される。 樹状細胞由来と考えられるランゲルハンス細胞の反応性ポリクローナルな増殖が病態形成の主と考えられている。 ランゲルハンス細胞は、細胞質に特有なBirbeck顆粒、S100蛋白、ランゲリン(CD207)をもち、細胞膜にはCD1a抗原を発現し、IgG‐Fcレセプターを持つ。
成人例では肺病変が主であるが、25%から33%の患者で肺外病変を伴い、喫煙だけが原因(誘因)ではない。 気胸(25%)、尿崩症(15%)、骨病変(10%)、肝障害、皮膚病変、腎障害を認めることがある。 成人型LCH(LCH)では、咳嗽(51%)、息切れ(22%)、喀痰(19%)、胸痛(19%)を認める。 検査所見では、肺機能障害で拘束性障害(24%)、閉塞性障害(9%)、拡散障害(45%)、動脈血液検査で低酸素血症(3%)、高炭酸ガス血症(26%)を認める。肺高血圧を合併する事もある。
難治性稀少疾患であり、治療方法は確立していない。 成人では、まず禁煙指導を行うが、改善しない症例も多い。 気胸、肺高血圧、呼吸不全が併存する場合はその治療を行う。 悪化例ではステロイドが投与されるが、効果は必ずしも一定でない。 多臓器型を主体に免疫抑制剤、抗腫瘍剤、分子標的治療などが試みられることがある。
2012年の成人例を含む調査では10年生存率は91%であった。 自然寛解例もあるが死亡例の報告もある。 多臓器型の予後は不良とされている。 有効な治療法はなく、長期療養が必要になる。 予後因子として、肺病変の広がり、びまん性の肺嚢胞、高度肺機能障害、高齢発症、症状の持続、繰り返す気胸、骨以外の肺外病変、喫煙継続、肺高血圧等の報告がある。
140から180人程度と推定(1997年の難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班と疫学班による共同研究による)
不明(ランゲルハンス細胞のポリクローナルな増殖)
未確立(対症療法のみである)
必要(病態を改善させる治療法なし、対症療法のみ)
あり(難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班作成の診断基準)
動脈血液ガス分析所見、呼吸機能検査所見(6分間歩行試験を含む)、自覚症状、気胸の有無、肺外病変(リスク臓器)の有無、肺高血圧の有無、病型(多臓器型か否か)を基に分類。軽症II以上を対象とする。
「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班」
研究代表者 千葉大学大学院医学研究院 呼吸器内科学
教授 巽 浩一郎
日本呼吸器学会
国立病院機構近畿中央胸部疾患センター 臨床研究センター
センター長 井上 義一
認定基準は病理診断確実例(Definite)、臨床診断例(Probable)で、重症度の基準を満たす場合とする。
A. 症状- 咳嗽
- 労作時呼吸困難
- 胸痛(自然気胸の合併)
- 肺外症状(発熱、全身倦怠、尿崩症、体重減少、骨痛、皮疹、リンパ節腫大、肝脾腫、眼球突出等)
成人型では10-20%の患者は無症状、10-40歳を中心として、男性に多い(2-4:1)。 90%は喫煙者である。
B. 検査所見- 画像所見
CT、MRIにて病変臓器所見(肺、骨、肝、腎、胸腺、甲状腺、脳下垂体、リンパ節等)を認める。
胸部画像所見:
(1) 胸部X線検査にて、上中肺野優位に網状粒状影・薄壁小輪状影・浸潤影が混在する。(間質性肺炎との鑑別は、上・中肺野優位で肺容積の減少がない点を参考にする)
(2)高分解能CT(HRCT)検査にて、5 mm以下の小粒状(結節状)影、索状影、小輪状影が上、中肺野優位に認められる。数mmから数cmの薄壁嚢胞が、上・中肺野の中間層から内層を中心に認められる。 - 病理学的所見:
(主要所見)
組織検査にてランゲルハンス細胞の増殖。大型で深い切れ込みのある核を有し、胞体がエオジンに淡染するランゲルハンス細胞の増殖{免疫染色でS100蛋白陽性、細胞膜にCD1a、ランゲリン(CD207)、S-100陽性。電子顕微鏡では細胞質にBirbeck顆粒をもつ}と好酸球やリンパ球、形質細胞を含む病変を認める。
(肺病変に関する補足所見)
肺においては、典型的な場合は経気管支肺生検でも組織診断可能であるが、診断が確定しない場合は外科的肺生検を行う。
肺ではランゲルハンス細胞の増殖を呼吸細気管支上皮、肺胞管壁、細気管支上皮下部位、線維化部位に認める。 ランゲルハンス細胞は血管壁にも浸潤し血管壁の弾性線維の断裂を生じ、しばしば肺動脈、肺静脈内の線維性閉塞がみられる。 正常肺でもランゲルハンス細胞は気管支、細気管支上皮に分布する。- a. 細気管支周囲などにstellate fibrosisを認める。
- b. 主として細葉中心性に嚢胞状病変を認める。嚢胞壁の線維化は強く、弾性線維の破壊・消失が認められる。また、組織球をみることがある。
- c. 慢性に経過すると、広範囲に気腫性病変が認められる。
- d. 剥離性間質性肺炎(DIP)、呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)を伴うことがある。
- e. 初期の細胞増殖期(cellular stage)から細胞性・線維化期(intermediate stage)を経て、 線維化期(fibrotic stage)、嚢胞形成期(cystic stage)と病期別に形態が異なる。線維化期(fibrotic stage)、嚢胞形成期(cystic stage)ではランゲルハンス細胞を認めない事もある。 しばしば同一症例で細胞性・線維化、嚢胞性変化が混在して認められる
(肺病変に関する重要な参考所見)
気管支肺胞洗浄液中のランゲルハンス細胞(CD1a)が総細胞数の5%以上認められた時は組織所見と同等に扱う。
- 肺病変では以下の疾患を鑑別する。
剥離性間質性肺炎(DIP)
呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)
慢性過敏性肺炎、サルコイドーシス
非結核性抗酸菌症、肺結核
ブラ、ブレブ
好酸球性肺炎
空洞形成性肺腫瘍
シェーグレン症候群に伴う肺病変、リンパ球性間質性肺炎
リンパ脈管筋腫症
アミロイドーシス(嚢胞性肺疾患を伴う場合)、キャッスルマン病
Birt-Hogg-Dube症候群、Light–chain deposition disease
COPD
病理診断確実例(Definite)
B-1 画像所見、B-2病理学的所見を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
臨床診断例(Probable)
B-1画像所見を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの(病理組織学的所見が得られなかった症例)
診断疑い例(Possible)
Aの臨床所見を認めLCHを疑うもB-1画像所見が典型的でない場合、あるいはB-1画像所見を満たし、Cの鑑別すべき疾患を完全には除外しえないもの
重症度分類 軽症Ⅱ以上を対象とする。
スコア | 0 | 1 | 2 |
LCHに伴う症状 | あり | ||
%FVC (%) | %FVC ≧ 80 | 80 > %FVC ≧ 50 | 50 > %FVC |
一秒量/予測肺活量 (%) | 一秒量/予測肺活量 ≧ 70 | 70 > 一秒量/予測肺活量 ≧ 30 | 30 > 一秒量/予測肺活量 |
PaO2 (Torr)室内気下 | PaO2 ≥ 80 | 80> PaO2 ≥ 60 | 60 < PaO2 |
6分間歩行試験 | Sp02の最低値<90%あり | ||
過去一年1回以上の気胸発症 | 有り | ||
肺高血圧 | 有り | ||
病型 | 多臓器型 | 多臓器型のうち、以下の病変を認める場合
肝臓、脾臓、造血器、脳下垂体(尿崩症) |
- 重症度スコア = 上記スコアの合計
- 動脈血液ガス分析が施行できない場合には、酸素飽和度測定にて代用可とする。
- 呼吸機能障害、気胸等で肺機能検査を実施できない場合は、スコア2に相当するとする。
- 6分間歩行試験の実施が困難な場合は、室内歩行等でSp02 < 90%を認める場合はありとする。
重症度スコア | 重症度 |
0 | 軽症 I |
1-3 | 軽症 II |
4-5 | 中等症 |
6-8 | 重症 |
9以上 | 難治重症 |
なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要な者については、医療費助成の対象とする。