厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業
難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究

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肺移植

a. はじめに

 日本の肺移植は、1998年10月に岡山大学で行われた生体肺移植の成功に始まり、2000年に東北大学と大阪大学で行われた脳死肺移植が続き、これまで着実な発展を遂げている。2010年7月に、改正臓器移植法が施行され、家族の同意での臓器提供が可能となると、脳死肺移植数が増えるとともに、日本臓器移植ネットワーク(JOT)の登録患者数も急増している。したがって日本では、未だドナー(臓器提供者)不足が非常に深刻な問題であり、その解決策として重症患者への生体肺移植を必要とする状況が続いている1

b. 肺移植の対象

 肺移植が適応となりうる疾患は、終末期呼吸器疾患であり、我々「難治性呼吸器疾患・肺高血圧に関する調査研究班」の調査研究対象となっている原発性肺高血圧症などの難治性呼吸器疾患疾患をはじめ、特発性間質性肺炎などの多数の難治性呼吸器疾患を含む(表1)。詳細は、日本肺および心肺移植研究会のホームページ(http://www2.idac.tohoku.ac.jp/dep/surg/shinpai/index.html)のレシピエント(移植を受ける人)適応基準に提示されている。また各疾患における肺移植待機リストへの登録基準に関しては、国際心肺移植学会によるガイドラインに記載されている2
 肺移植を受けるためには、しかるべく適応評価検査を受ける必要があり、その結果に基づき肺移植レシピエントとして移植待機登録となる。

c. 脳死肺移植

本邦においては、肺移植認定施設(東北大学、東京大学、獨協医科大学、千葉大学、藤田医科大学、京都大学、岡山大学、大阪大学、福岡大学、長崎大学)で、適応評価検査を受ける必要がある。その結果に基づき、中央肺移植検討委員会で適応ありと判断されると、日本臓器移植ネットワーク(JOT)に登録することができる。
 肺移植には脳死肺移植と生体肺移植があり、ドナーが脳死患者からのものを脳死肺移植、患者の家族などの健常者からものを生体肺移植と呼ぶ。
 脳死ドナー肺は、血液型と肺の大きさが条件を満たしている待機患者の中で、待機期間の長いものに優先的に提供される。2021年1月31日の時点で、登録者数は452である(https://www.jotnw.or.jp/)。したがって、日本の脳死肺移植待機患者の平均待機期間は、未だ800日を超えている。登録に要する期間や、登録後の待機期間を考慮すると、肺移植施設へ紹介するタイミングが重要である。

表1 <肺移植の適応となり得る疾患>

1 肺高血圧症
 1.1 特発性/遺伝性肺動脈性肺高血圧症
 1.2 薬物/毒物誘発性肺動脈性肺高血圧症
 1.3 膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症
 1.4 門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症
 1.5 先天性短絡性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(アイゼンメンジャー症候群)
 1.6 その他の疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症
 1.7 肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)
 1.8 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
 1.9 多発性肺動静脈瘻
 1.10 その他の肺高血圧症
2 特発性間質性肺炎(IIPs)
 2.1 特発性肺線維症(IPF)
 2.2 特発性非特異性間質性肺炎(INSIP)
 2.3 特発性上葉優位型間質性肺炎(IPPFE)
 2.4 上記以外のIIPs
3 その他の間質性肺炎
 3.1 膠原病合併間質性肺炎
 3.2 薬剤性肺障害
 3.3 放射線性間質性肺炎
 3.4 慢性過敏性肺炎
 3.5 上記以外のその他の間質性肺炎
4 肺気腫
 4.1 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
 4.2 α1アンチトリプシン欠乏症
5 造血幹細胞移植後肺障害
 5.1 閉塞性GVHD
 5.2 拘束性GVHD
 5.3 混合性GVHD
6 肺移植手術後合併症
 6.1 気管支合併症(吻合部および末梢も含む)(狭窄など)
 6.2 肺動脈吻合部合併症(狭窄など)
 6.3 肺静脈吻合部合併症(狭窄など)
7 肺移植後移植片慢性機能不全(CLAD)
 7.1 BOS
 7.2 RAS
 7.3 その他のCLAD
8 その他の呼吸器疾患
 8.1 気管支拡張症
 8.2 閉塞性細気管支炎
 8.3 じん肺
 8.4 ランゲルハンス細胞組織球症
 8.5 びまん性汎細気管支炎
 8.6 サルコイドーシス
 8.7 リンパ脈管筋腫症
 8.8 嚢胞性線維症
9 その他、肺・心肺移植関連学会協議会で承認する進行性肺疾患

d.生体肺移植

 生体肺移植は、健康なドナーが右もしくは左下葉を提供するという犠牲の上に成立する移植であるため、病勢の進行が速く、脳死ドナー肺を待つ余裕がない重症患者を適応とする。したがって、生体肺移植の適応となる患者は、移植時に入院治療や人工呼吸管理を必要としていることが多く、早期死亡率のリスクが一般的に高いとされるが3、本邦の生体肺移植後の成績は非常に良好である4
 日本における生体ドナーの適応は、20歳以上60歳以下の2親等あるいは3親等以内の血縁者と配偶者に限定しているのが一般的である。重要なのは、レシピエントへの愛情に基づく自発的な臓器提供であり、その意思決定に外部からの圧力がかからぬよう十分に注意する必要がある。

e.移植後成績

 日本では、1998年10月から2020年12月31日までの22年間で、838例の肺移植が行われている:内、脳死肺移植が584例、生体肺移植が251例、心肺同時移植が3例である(図1)。移植後5年, 10年生存率は、脳死肺移植73.0%, 60.7% 、生体肺移植73.3%, 61.6%であり、国際心肺移植学会の報告による世界の脳死肺移植53%, 35%と比較すると、非常に良好である。

図1. 日本の年度別肺移植数(日本肺および心肺移植研究会2021年レジストリーレポート)

文献

1. Date H, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2003;126(2):476-481.
2. Weill D, et al. J Hear Lung Transplant. 2015;34(1):1-15.
3. Yusen RD, et al. J Hear Lung Transplant. 2016;35(10):1170-1184
4. Date H, et al. Eur J Cardio-Thoracic Surg. 2015;47(6):967-973.

参考資料/リンク

臓器移植Q&A(日本移植学会ホームページ)
http://www.asas.or.jp/jst/general/qa/lungs/qa3.php

呼吸器の病気 肺移植(日本呼吸器学会ホームページ)
https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=45

「~いのちのおくりもの~肺移植のためのガイドブック」(編集;日本呼吸器学会・日本胸部外科学会)
https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/650.pdf